20/2/5 ヒロアカ「丸太」に怒る中国人

    ヒーローアカデミアの登場人物に志賀丸太というキャラクターが存在する。彼は敵サイドのマッドサイエンティストであり、人体実験や「脳無」という化物を製造している。

    2020年2月3日にこのキャラクターの名前が変更されることが決定した。理由は「過去の史実を想起させるとの指摘があり、命名の時点でそのような意図はないが、無関係の史実と作品を結び付けられることが不本意であるため」とされた。

   ではこの過去の史実とは何だろうか?Wikipedia によると、第二次世界大戦期に存在していた研究機関731部隊が、人体実験の材料を「マルタ」という隠語で呼んでいたというものである。

   731部隊の行った実験の真偽はわからないが、仮に事実であったとすると、 関係者及び同胞の怒りは凄まじいものであると想像できる。というのも怒りに狂った人が原爆の被害者を馬鹿にした画像を反撃としてSNS上で上げており、私はその原爆画像に確かな怒りを覚えたからだ。

   異なる文化の価値観が衝突した時に、重要となる論点は先に攻撃したのがどちらかということである。ロビンソンクルーソーカニバリズムに遭遇した時に、神の教えに違反するその民族を滅ぼそうという考えを持ったが、先制攻撃を仕掛けられていない以上、自分が神に代わって裁きを下すことなど出来ず、自分が人間を殺そうとしたことを恥じた。どんな信念の違いがあろうと、攻撃をされない限り反撃をしてはならないのである。

   日本の漫画作品で「マルタ」の言葉を使用したことは先制攻撃に当たるだろうか。私は当たらないと考える。

   仮に、この漫画が中国で公式に出版されていた場合は、この表現が中国人のタブーに触れるかどうかを吟味しなかった日本の出版社と、それを受け入れた中国側の責任である。作品の筆者に責任を求める人は、この世の全てのタブーに触れないよう作品を作り上げろというのだろうか。そんなことを考えた作品が想像力に溢れるだろうか。

   では、この漫画が中国で非正規の手段で読まれていた場合はどうだろうか?これはカニバリズムの文化に、勝手に侵略しておきながら、その文化が自分と異なっていることを理由に破壊しようとする行為である。どちらが攻撃しているかをよく考えるべきだ。以上2点から漫画の作者は先制攻撃をしていないことがわかるだろう。

   最後に日本に住んではいるが、中国の文化背景を持っている人がこの漫画を読んだ時を想定する。この場合は、お互いに異なる文化を持つものとして話し合うしかない。名前の変更は、異なる文化背景を思いやった英断であったと思う。一方で謝罪しろという要求は一体どういうことなのか。名前を変えたのは言葉選びが間違っていたからではなく、異なる語彙の存在を受け入れただけなのだ。受け入れなければいけない義務などそこにはなく、作者はやれる最大限の行為をした。

   このように長々と書いているのは、自分への批判も込めてである。私は原爆Tシャツを着ている人間に怒りを覚えたが、本来取るべき態度は、自分の価値観が絶対ではないことを認めて、「配慮していただくことは可能でしょうか」と相手への尊重を持つべきだった。これからの人生で異なる価値観にぶつかった時、今日考えた反省を胸に刻んで相手への尊重は忘れないように生きていきたい。